友人の翻訳家がとある文学賞の権利帰属条件について「これ普通ですか😰」とXに投稿しました。その内容は至ってありふれた条項なのですが、そろそろ行動を起こしたいなと思ったのでこのエントリーを書いています。
権利帰属の内容は以下のとおり。実際のサイトをリンクすることも考えましたが、このエントリーの目的はその文学賞を批判することではないので、要約して書き直しています。
- 入選作品の著作権は翻訳・翻案や二次利用に関する権利も含め、入選時点で主催者に移る
- 主催者やその許諾先による作品利用に対して、応募者は著作者人格権を行使できない
- 自身のサイトやポートフォリオへの掲載は、主催者との協議により認められる場合がある。ただし、営利目的や主催者の利用を妨げる用途は認められない可能性がある
実際よくある内容ですし、著作権に詳しい弁護士に頼んだら、これが出てくることでしょう。コンテストの主催者にとっては安心できる条件です。コミックやアニメ化で追加利用料を支払う必要はないし、仮に作家と連絡が取れなくなっても、入選作を利用し続けることができるのです。
この条件、商品や共同制作物の一部を業務委託で制作するときには、よくある形式です。依頼した作家が著作者人格権を行使できると、商品のパッケージに使うイラストの色や配置を変更したことにクレームをつけて取り下げさせることもできるようになります。ゲームやアニメの一部を外注された人物が、担当部分を利用させない、なんて言い出したら収拾がつきません。そして上記の契約が業務委託時の著作物利用契約なら、自分のサイトで紹介できるのは、作家にかなり譲歩した契約とも言えるでしょう。
しかし文学賞にはそぐわない。この契約は、主催者側のまだ見ぬリスクを回避するためのものでしかないからです。Webサイトで公開していいですよ、という条件だって文学賞なら当然のことでしかありません。
何より重いのは2の「著作者人格権を行使しない」です。著作者人格権は、作品の著作者を名乗る権利、作品の題名を決める権利、作品が改変されない権利を含んでいます。これを行使できなければ、作品が勝手に改変されても是正させることができません。そもそも著者名を消されても、自分の名前を別の作品に付けられても止められません。
もっとも、作家から作品を取り上げるつもりで開催する文学賞なんてないはずです。入選した作家は文学賞の宝物です。互いに信頼し合い、著作物の利用について話し合う主催者の方が多いことを私は疑っていません。それでも業務著作物契約を下敷きにした契約を求めてくるのは、単純に、他の方法が知られていないからでないでしょうか。
そこで、文学賞のための著作物利用条件の雛形を提案します。
- 応募者は入選作の期限付き独占利用権を主催者に許諾する。
- 応募者は、次に掲げる形態で作品を翻案することを主催者に許諾する。
- 例)オーディオブック収録のための、自動更新付き翻案利用許諾
- 独占利用期間中でも応募者は入選作を年間傑作選集やアンソロジーに掲載できる。
業務委託型の契約とは全く異なりますが、現実的には同じことです。
コミック化、アニメ化、舞台化、翻訳出版の時に、作家から全ての権利をとりあげた状態でうまくいくわけがありません。Xで「知らんうちに舞台になってた」とか「韓国語訳されてたのに印税入らないよ」なんて投稿されたら炎上必至です。下手すると文学賞の解体まで行きかねません。その時になれば支払えばいい、と思っているかもしれません。しかし、著作権を取り上げた後で作家に支払う仕組みを作るより、主催者が作家に代わって作品の利用を開拓し、その利益を分け合う契約にしておくほうが簡単です。
幸運にも翻案の機会に出会ったら、作家と一緒に事業を行ないましょう。
うまくいっている間に手を動かす必要はありません。うまくいかなくなった時には、手を切れます。応募者の強い権利を止める業務委託型の権利委譲では不満が火種になりかねませんが、この形の契約なら、主催者が利用を止めればいいだけです。
文学賞での業務委託型著作権利用、そろそろ考え直しませんか?