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「コラボレーション」が再び傑作選に掲載されます

File770によると、9月26日発売の『Big Book of Cyberpunk(サイバーパンク大全)』の掲載一覧に、私の初翻訳短編『The Violation of the TrueNet Security Act』(翻訳:ジム・ハバート、名付け親はジョン・ジョセフ・アダムス)が掲載されるとのこと。

Violation of the TrueNet Securty Actは初の翻訳作品であると同時に、私にとって初の商業作品であり、初の短編小説でもある。また、多くの傑作選に収録された作品でもある。オリジナルの邦題はご存知『コラボレーション』だが、英題はジョン・ジョセフ・アダムスが提案してくれた。正直なところこのタイトルでなければここまで何度も掲載されることはなかっただろう。

ストーリーは、コンピューターがどのようにして命を得るかについて。舞台はGene Mapperと同じ世界。インターネットが放棄されP2Pセキュア接続をベースにしたトゥルーネットがコンピュータ同士をつないでいる時代。主人公は、インターネット・ジェネレーション・サーバーを保守する古いタイプのエンジニア。主な仕事は、今も勝手に動いているインターネット時代のサーバーを監視し、報告を受けて止めさせる仕事だ。しかしある日、彼は監視リストにコード化されたインターネット・サーバーの中に、自分が作ったサービスを発見する。そのサーバーは彼の設計通りに動いていたが、奇妙な方法でコードが変更されていた…。

The bell for the last task of the night started chiming before I got to my station. I had the office to myself, and a mug of espresso. It was time to start tracking zombies.

I took the mug of espresso from the beverage table, and zigzagged through the darkened cube farm toward the one strip of floor still lit for third shift staff, only me.

Violation of the TrueNet Security Act from LightSpeed.com

これをライトスピードに投稿し、本書に推薦してくれた最初の英文編集者ニック・ママタスに感謝する。

短編「読書家アリス」が出ます

UFO出版の編集長であるアレックス・シュヴァルツマン氏が編集するアンソロジー『The Digital Aesthete』に短編小説「読書家アリス」を寄稿しました。 アンソロジーの出版は12月になるとのこと。

作品は生成AIについての物語で、私はこの短編についてさまざまな自分の考えを埋め込んでいます。物語の舞台はLLMによる狂乱が落ち着いた後の世界です。AppleのVRが普及したオフィスで、生成AIがある世界でフィクション編集者がふとしたことに気づく物語です。お気に召していただければ幸いです。

冒頭に掲載されているアレックスのエッセイも、今の私たちの懸念をすくいとった素晴らしい一文ですし、ケン・リュウの寄稿した短編も素晴らしい。翻訳が多いためか読みやすいので英語に挑戦するつもりでお読みいただけます。

私は文章や絵画を生成するLM(言語モデル)が作品を作る助けになると信じています。また同時に、フィクションの分析、作品の批評、読み上げプログラムの開発、さらには私より優れたサイバーパンクの執筆のために、私のアイデアや作品を提供することについても否定的ではありません。しかし、それは現在行われているような、海賊版から盗んでいると言われることを否定できないようなやり方ではない方がいいかもしれません。

2019年以降、私は全ての作品の執筆履歴をgitで管理しています。もしも作家が草稿のgitリポジトリを提供し、適切なヒントを与えて圧縮すれば(学習という言葉は適切ではありませんね)そのLMはより正確な情報を提供し、これまで以上に豊かな文章表現を作り出すことでしょう。

私は自分の作品を用いた言語モデルを作り始めましたが、この成果が結ぶ日はかなり遠そうですので、当面はそんな作業をしながら思いついたことを元に小説を書いていこうと思います。

WordPressの多言語化

taiyolab.comはWordpressの英語と日本語の多言語サイトです。それほど英語のコンテンツが多いわけでもないのですが、多言語化プラグインを用いています。

今までは歴史あるWPMLを使っていました。WPMLは一つ一つの投稿やページ、メニューに対する多言語版のページを作成して閲覧時にプラグインで表示を切り替える多言語かプラグインです。元の言語と翻訳先で似たようなコンテンツを提供するためのプラグインです。

翻訳チケットやタスクの割り振りもできますので、複数の翻訳スタッフが直接Wordpressを使う場合には役に立つことでしょう。投稿やページ、メニューも日本語と英語を切り替えて表示しますから、言語担当のスタッフが間違えて他の言語を触ってしまう事故も少なくなるに違いありません。

ですが、ちょっと道具が大きくなりすぎました。お世話になりましたが、いくつかのマルチリンガルプラグインを検討して、POLYLANGに決めました。

動作が軽快なことと、各言語のページで同じスラッグが使えることはありがたいですね。

文藝年鑑への寄稿

日本文藝家協会が編纂する『文藝年鑑2023』に、昨年のSF概況を寄稿しました。

文藝年鑑 2023
定価:5,170円(税込)
発行:新潮社(ISBN978-4-10-750049-6)

2022年のSFをお伝えする文章です。見開きで四千文字ほどの分量しかありませんが、代表的なSF作家やSF文学賞、SF文学賞を受賞した作家の近刊などを紹介しながらオンライン出版された作品や、短編からキャリアを積む作家たちのことも紹介することができました。大森望さんのゲンロンSF創作講座は、どうしても言及しておく必要がありますしね。

個人的に外せなかったのは、SFプロトタイピングです。商業・産業と文学の共同作業には批判もありますが、あらゆる消費が低迷している2022年に、SFの存在感を保つ一助になったことは間違いありません。功罪を含め――というところまでは筆が届きませんでしたが、短い中でも紹介しています。

またSFの大きな部分を占める翻訳についてもいくらか割いています。中国、韓国SFの紹介が多かったことに触れていますが、特にオクテイヴィア・E・バトラーの短編集『血を分けた子供』の訳出について触れることはこの概況を引き受ける大きな動機でもありました。

振り返りは楽しくはありましたがしんどかったので、来年は誰かに譲りたいなあ。

未来の「奇縁」はヴァースを超えて

2022年にWired Sci-Fiプロトタイピング研究所と行なったSFプロトタイピングが本になります。

未来の「奇縁」はヴァースを超えて―「出会い」と「コラボレーション」の未来をSFプロトタイピング
定価:本体2,182円+税
発行:コンデナスト・ジャパン
発売:プレジデント社

著者は藤井太洋、高山羽根子、倉田タカシ、Sansan株式会社、そしてワークショップを実施したWired Sci-Fiプロトタイピング研究所です。このほかにも、北村みなみさんのコミックや、小川さやかさんの講演録、そしてSansan株式会社の田邉泰さんの作品とインタビューが収録されています。写真では伝わりにくのですが、書籍は鮮やかな特色ピンクで、小口にも塗りが施されています。

私が寄稿した作品は「二千人のわたしたち」。ユーザーのエージェントが自律的に活動する未来を描いた作品です。

SFプロトタイピングは、企業や自治体などの組織がSF的な思考法で事業を捉えなおす活動です。SF作家を招いて事業を説明し、企業と業界の未来を描いてもらう簡単なものから、企業内で募ったスタッフにSFを書いてもらうワークショップを含んだもの、またはSF作家と長い期間をかけて話し合い(手持ちの技術と資源から未来を予測するフォワードキャストとは異なる)バックキャストによる事業シミュレーションを行うようなものまで、さまざまな形式で行われていて、私も過去に七回ほど参加しています。

SFプロトタイピングは日本のSF関係者の間ではかなり一般的になってきましたが、Wired Sci-Fiプロトタイピング研究所の行うSFプロトタイピングは、長期にわたるプロジェクトで企業側にも主体性を持たせた活動が特徴的です。

この本には、Sansan株式会社と一年間にわたって行ったプロトタイピングの記録と、ワークショップの手法、ワークショップで使ったカードなどが収録されています。

収録された3篇の小説作品も読み応えがありますが、これらの作品の背景にどんな会話があったのか、参加したIT企業のトップたちがどんなところに気づき、物語る力をどのように行使したのかを知ることができる貴重な一冊となりました。

ぜひ手に取ってご覧ください。