お待たせしました。9月19日、早川書房より長編SF『マン・カインド』が発売されました。今日から全国の書店、電子書籍販売ストアで購入いただけます。
判型は13.1 x 2.2 x 18.8 cm、本文392ページのソフトカバー。ブックデザインは岩郷重力さんです。

先月ゲラの奥付けを見て愕然としてしまったのですが、SFマガジンでこの作品の連載が始まったのは2017年の8月号でした。7年前のことです。冒頭のサンフランシスコのシーンを書いていたのは、ヘルシンキのワールドコンの最中でした。石畳の残る街で、サンフランシスコに石畳を復活させる未来の歴史を考えていました。日本SF作家クラブの一般社団法人化を目指して作業を進めているころでもありました(YOUCHANと鬼嶋さん、ありがとう!)。息子は2歳、手のかかる年齢です。とはいえ連載が途切れ途切れになり4年かかってしまったのも、改稿に三年かけてしまったのも、ひとえに私の調整不足によるものです。最終回まで場所を空けてくれたSFマガジンや私が空けてしまった穴を埋めてくれた作家の皆様にはご迷惑をおかけしました。連載で星雲賞を下さったファンの皆様にはには大変ご心配をおかけしました。
『マン・カインド』にはいくつかの先行作品があります。直接関係しているのは短編集の『公正的戦闘規範』の表題作と、同短編集に収録されている「第二内戦」ですが、『屍者の帝国(伊藤計劃・円城塔)』に寄せて書いた「従卒トム」(『屍者たちの帝国』に収録されています)が『マン・カインド』への出発点でした。
南北戦争で製造された白人屍者を従える元黒人奴隷兵が西郷隆盛軍に加わってサムライと戦う「従卒トム」を書いていたのは、ワシントン州スポケーンで開催されたワールドコン「サスクアン」に参加している時でした。ひねりのあるアイディアと充実したストーリーラインに私は自信があり、トリビュート作品だし、抑えなければならない明治維新コンテクストはあるしで翻訳されることもないだろうという安心感もあって、会う人会う人に物語のアイディアを話してまわりました。この時知り合ったケン・リュウやSFWAの作家たちは面白いと言ってくれましたが、当然ながら、嫌な顔をされることもありました。人によっては曽祖父の生きていた地続きの話ですし、関係のない(しかも無名の)日本人作家が手を突っ込んできて人種の問題までほじくり返すのだからいい気分はしないことでしょう。顔を顰められたら私はごめんなさいと言って、いいフィクションにするからいずれ読む機会があれば手に取って欲しいと言って別れていました。
この時から私はアメリカについて考えることが増え、書くことが増えました。「第二内戦」は、このワールドコンの翌年にカンサスシティで開催された「ミッドアメリコン2」で出会った選挙戦を経て生まれた話ですし、吉川英治文学新人賞をいただいた『Hello, World!』は西海岸的な価値観を持つ、私の分身の主人公が、その価値観の通用しない問題に取り組む作品集です。
私はこれからもアメリカについて書くことが何度かあるかと思いますが、図らずも7年かけてしまった『マン・カインド』は、その里程標になることでしょう。
などと執筆の背景を紹介しましたが、『マン・カインド』は、何よりまずエンターテインメント作品です。ジェイクと呼ばれる迫田城兵が見る異変に驚き、トーマ・クヌートの住むサンフランシスコでテクノロジーを楽しみ、レイチェル・チャンとジェイクの旅する中部アメリカを存分に楽しんでください。