
東京創元社から刊行された韓国発の神話アンソロジー『七月七日』に、短編「海を流れる川の先」を寄稿しています。
発起人のYK.ヨンから「神話を題材にしたSF短編集を作りたい」と相談を受けた私は、故郷の話を書きたくなりました。
作品は西暦一六〇九年の薩摩による奄美・琉球侵略を描いたものです。主人公の住む(そして私の故郷でもある)奄美大島はこの侵略で薩摩の統治下に入り、江戸中期以降はサトウキビ生産を行う西洋風のプランテーション支配を受けることになります。私は祖先の視点で、この侵略を描きました。奄美にもともとあった素朴な海洋信仰と琉球が持ち込んだ巫女文化が、近代と出会う場です。神話の生きている世界に具体的な武力が足を踏み入れてくる、その一瞬を描くことができたと思います。
短編集の収録作と著作者は以下の通り。ケン・リュウをアメリカ人作家だとカウントすると、中国人作家のレジーナ・カンユー・ワン、日本人の私、そして韓国系の作家たち。四カ国から集まってきた作品集ということになります。
- ケン・リュウ「七月七日」
- レジーナ・カンユー・ワン「年の物語」
- ホン・ジウン「九十九の野獣が死んだら」
- ナム・ユハ「巨人少女」
- ナム・セオ「徐福が去った宇宙で」
- 藤井太洋「海を流れる川の先」
- クァク・ジェシク「……やっちまった!」
- イ・ヨンイン「不毛の故郷」
- ユン・ヨギョン「ソーシャル巫堂指数」
- イ・ギョンヒ「紅真国大別相伝」
実は今日までちょっと不安でした。ケン・リュウの作品は読んでいたのですが、韓国の作家たちがどんな話を書いたのか、あらすじ以上のことは知らなかったのです。アンソロジーの中で浮いてはいないか、物語の強さが足りなかったりはしないだろうか――しかし、今日こうやって手に取ることができました。
『七月七日』はいい作品集に仕上がりました。日下明さんの装画と長﨑綾さんの装丁は、こだわり抜いた韓国の原著の装丁と並ぶ素晴らしい作品です。
ぜひ手に取って、四カ国の作家たちが紡ぐ新たな神話をお楽しみください。