短編「読書家アリス」が出ます

UFO出版の編集長であるアレックス・シュヴァルツマン氏が編集するアンソロジー『The Digital Aesthete』に短編小説「読書家アリス」を寄稿しました。 アンソロジーの出版は12月になるとのこと。

作品は生成AIについての物語で、私はこの短編についてさまざまな自分の考えを埋め込んでいます。物語の舞台はLLMによる狂乱が落ち着いた後の世界です。AppleのVRが普及したオフィスで、生成AIがある世界でフィクション編集者がふとしたことに気づく物語です。お気に召していただければ幸いです。

冒頭に掲載されているアレックスのエッセイも、今の私たちの懸念をすくいとった素晴らしい一文ですし、ケン・リュウの寄稿した短編も素晴らしい。翻訳が多いためか読みやすいので英語に挑戦するつもりでお読みいただけます。

私は文章や絵画を生成するLM(言語モデル)が作品を作る助けになると信じています。また同時に、フィクションの分析、作品の批評、読み上げプログラムの開発、さらには私より優れたサイバーパンクの執筆のために、私のアイデアや作品を提供することについても否定的ではありません。しかし、それは現在行われているような、海賊版から盗んでいると言われることを否定できないようなやり方ではない方がいいかもしれません。

2019年以降、私は全ての作品の執筆履歴をgitで管理しています。もしも作家が草稿のgitリポジトリを提供し、適切なヒントを与えて圧縮すれば(学習という言葉は適切ではありませんね)そのLMはより正確な情報を提供し、これまで以上に豊かな文章表現を作り出すことでしょう。

私は自分の作品を用いた言語モデルを作り始めましたが、この成果が結ぶ日はかなり遠そうですので、当面はそんな作業をしながら思いついたことを元に小説を書いていこうと思います。

文藝年鑑への寄稿

日本文藝家協会が編纂する『文藝年鑑2023』に、昨年のSF概況を寄稿しました。

文藝年鑑 2023
定価:5,170円(税込)
発行:新潮社(ISBN978-4-10-750049-6)

2022年のSFをお伝えする文章です。見開きで四千文字ほどの分量しかありませんが、代表的なSF作家やSF文学賞、SF文学賞を受賞した作家の近刊などを紹介しながらオンライン出版された作品や、短編からキャリアを積む作家たちのことも紹介することができました。大森望さんのゲンロンSF創作講座は、どうしても言及しておく必要がありますしね。

個人的に外せなかったのは、SFプロトタイピングです。商業・産業と文学の共同作業には批判もありますが、あらゆる消費が低迷している2022年に、SFの存在感を保つ一助になったことは間違いありません。功罪を含め――というところまでは筆が届きませんでしたが、短い中でも紹介しています。

またSFの大きな部分を占める翻訳についてもいくらか割いています。中国、韓国SFの紹介が多かったことに触れていますが、特にオクテイヴィア・E・バトラーの短編集『血を分けた子供』の訳出について触れることはこの概況を引き受ける大きな動機でもありました。

振り返りは楽しくはありましたがしんどかったので、来年は誰かに譲りたいなあ。

未来の「奇縁」はヴァースを超えて

2022年にWired Sci-Fiプロトタイピング研究所と行なったSFプロトタイピングが本になります。

未来の「奇縁」はヴァースを超えて―「出会い」と「コラボレーション」の未来をSFプロトタイピング
定価:本体2,182円+税
発行:コンデナスト・ジャパン
発売:プレジデント社

著者は藤井太洋、高山羽根子、倉田タカシ、Sansan株式会社、そしてワークショップを実施したWired Sci-Fiプロトタイピング研究所です。このほかにも、北村みなみさんのコミックや、小川さやかさんの講演録、そしてSansan株式会社の田邉泰さんの作品とインタビューが収録されています。写真では伝わりにくのですが、書籍は鮮やかな特色ピンクで、小口にも塗りが施されています。

私が寄稿した作品は「二千人のわたしたち」。ユーザーのエージェントが自律的に活動する未来を描いた作品です。

SFプロトタイピングは、企業や自治体などの組織がSF的な思考法で事業を捉えなおす活動です。SF作家を招いて事業を説明し、企業と業界の未来を描いてもらう簡単なものから、企業内で募ったスタッフにSFを書いてもらうワークショップを含んだもの、またはSF作家と長い期間をかけて話し合い(手持ちの技術と資源から未来を予測するフォワードキャストとは異なる)バックキャストによる事業シミュレーションを行うようなものまで、さまざまな形式で行われていて、私も過去に七回ほど参加しています。

SFプロトタイピングは日本のSF関係者の間ではかなり一般的になってきましたが、Wired Sci-Fiプロトタイピング研究所の行うSFプロトタイピングは、長期にわたるプロジェクトで企業側にも主体性を持たせた活動が特徴的です。

この本には、Sansan株式会社と一年間にわたって行ったプロトタイピングの記録と、ワークショップの手法、ワークショップで使ったカードなどが収録されています。

収録された3篇の小説作品も読み応えがありますが、これらの作品の背景にどんな会話があったのか、参加したIT企業のトップたちがどんなところに気づき、物語る力をどのように行使したのかを知ることができる貴重な一冊となりました。

ぜひ手に取ってご覧ください。

『七月七日』

東京創元社から刊行された韓国発の神話アンソロジー『七月七日』に、短編「海を流れる川の先」を寄稿しています。

東京創元社:七月七日

発起人のYK.ヨンから「神話を題材にしたSF短編集を作りたい」と相談を受けた私は、故郷の話を書きたくなりました。

作品は西暦一六〇九年の薩摩による奄美・琉球侵略を描いたものです。主人公の住む(そして私の故郷でもある)奄美大島はこの侵略で薩摩の統治下に入り、江戸中期以降はサトウキビ生産を行う西洋風のプランテーション支配を受けることになります。私は祖先の視点で、この侵略を描きました。奄美にもともとあった素朴な海洋信仰と琉球が持ち込んだ巫女文化が、近代と出会う場です。神話の生きている世界に具体的な武力が足を踏み入れてくる、その一瞬を描くことができたと思います。

短編集の収録作と著作者は以下の通り。ケン・リュウをアメリカ人作家だとカウントすると、中国人作家のレジーナ・カンユー・ワン、日本人の私、そして韓国系の作家たち。四カ国から集まってきた作品集ということになります。

  • ケン・リュウ「七月七日」
  • レジーナ・カンユー・ワン「年の物語」
  • ホン・ジウン「九十九の野獣が死んだら」
  • ナム・ユハ「巨人少女」
  • ナム・セオ「徐福が去った宇宙で」
  • 藤井太洋「海を流れる川の先」
  • クァク・ジェシク「……やっちまった!」
  • イ・ヨンイン「不毛の故郷」
  • ユン・ヨギョン「ソーシャル巫堂指数」
  • イ・ギョンヒ「紅真国大別相伝」

実は今日までちょっと不安でした。ケン・リュウの作品は読んでいたのですが、韓国の作家たちがどんな話を書いたのか、あらすじ以上のことは知らなかったのです。アンソロジーの中で浮いてはいないか、物語の強さが足りなかったりはしないだろうか――しかし、今日こうやって手に取ることができました。

『七月七日』はいい作品集に仕上がりました。日下明さんの装画と長﨑綾さんの装丁は、こだわり抜いた韓国の原著の装丁と並ぶ素晴らしい作品です。

ぜひ手に取って、四カ国の作家たちが紡ぐ新たな神話をお楽しみください。

原稿用紙プレビューの横書き対応

about novel-writer

今日リリースしたnovel-writer 1.9.0で、従来「縦書きプレビュー」と呼んでいた原稿用紙プレビューの横書きに対応しました。VS Codeの設定 > Novel.preview.WritingDirectionで設定できます。

特に要望が多かったわけではないのですが、中国語や韓国語でも使いたいケースが出てきたので、まずは横書きに対応することにしました。繁体字を用いる台湾や香港では縦書きの本も多いのですが、それ以外はすべて横書き文化になってしまっているのです。

切り替え機能の実装は思ったよりも簡単でした。ほとんどのCSSには画面に対する位置関係の指定する物理指定を、論理構造ベースに置き換えることができました。横書きの時に画面上部に物を配置したい時、topと書くのではなくブロックの先頭方向を指定するblock-startを指定するようなやり方です。

Web出版や技術文書、英文の多い作品を書く場合にお使いください。