短編集「DIGITAL AESTHETE」発売!

アレックス・シルヴァーマンのFUTURE SFが書き下ろし短編集「The Digital Aesthete」を発売しました。

魅力的な収録作は多岐にわたります。ケン・リュウの寄稿した「グッドストーリーズ」は、生成AI時代の人間のクリエイティビティに対する深い思索を味わうことのできる、実にケン・リュウらしい傑作です。また、アンソロジーの最後に収録されている「プロンプト」は、収録作品中で唯一のノヴェラです。それだけの価値はあります。是非読んでください。

私が寄稿したのは「読書家アリス」です。

舞台の設定は2040年代のポートランド。SF編集者のボブは、生成AIが当たり前になっている現状で自分の手がける作品の多くが、人間の手による作品であることを不思議に思っていました…というふうに始まる短編です。そう、これは生成AIが普通に使われる時代の話でっす。私は来るべき(あるいは避けがたい)その状況の中で、ひょっとしたら手にできるかもしれない希望を描いてみたくなりました。

どうぞ「読書家アリス」をお楽しみください。FUTURE SFでの公開日は2024年の2月14日。もちろん、アンソロジー「Digital Aesthete」を買えば今すぐ読むことができますし、私はそれを強くお勧めします。

「読書家アリス」の冒頭を少しだけ紹介します。

When Bob looked out the window, he felt like he had seen the woman passing by somewhere before. The abundant hair falling over her shoulders was going gray. She must have been in her fifties or so? Definitely older than Bob. She wore a hip wrap over running tights with a black hoodie. This was a style you saw often in Portland. Bob imagined her taking a nice run before heading to a coworking space to do her desk job and then, at lunchtime, walking down to Park Avenue where all the food trucks lined up.

She said hi to the guy running the kebab truck as she cut across the street and floated up the stoop of the building on the other side: the science fiction bookstore, Rose SF Wagon. From the ease of her movement and the tote bag bulge that could only be paper books, it was clear that she worked in an industry adjacent to Bob’s.

Reader Alice, by Taiyo Fujii translated by Emily Balistieri

最後に、収録作の一覧を紹介します。

  • THE BRAVE NEW GENERATIVE WORLD 著:Alex Shvartsman 公開日:2023年11月14日
  • SILICON HEARTS 作者:Adrian Tchaikovsky 公開
  • FORGED 作者:Jane Espenson 公開
  • A BEAUTIFUL WAR 作者:Fang Zeyu 公開日:2023年11月22日
  • STAGE SHOWS AND SCHNAUZERS 作者:Tina Connolly 訳:Nathan Faries 公開日:2023年11月29日
  • THE MERCER SEAT 作者:Vajra Chandrasekera 公開日:2023年12月6日
  • GOOD STORIES 作者:Ken Liu 公開日:2023年12月13日
  • THE FACTORY OF MARKET DESIRES 作者:Rodrigo Culagovski 公開日:2023年12月20日
  • THE FORMS OF THINGS UNKNOWN 作者:Julie Nováková 公開日:2023年12月27日
  • EVE & MADA 作者:Mose Njo 訳:Allison M. Charette 公開日:2024年1月3日
  • TORSO 作者:H. Pueyo 公開日:2024年1月10日
  • THE LAUGH MACHINE 作者:Auston Habershaw 公開日:2024年1月17日
  • THE UNKNOWN PAINTER 作者:Henry Lion Oldie 訳:Alex Shvartsman 公開日:2024年1月24日
  • HERMETIC KINGDOM 作者:Ray Nayler 公開日:2024年1月31日
  • A WORLD OF TRAGIC HEROES FICTION 作者:Zhou Wen 訳:Judith Huang 公開日:2024年1月31日
  • EMIL’S LABYRINTH 作者:Anna Mikhalevskaya 訳:Alex Shvartsman 公開日:2024年2月7日
  • 読書家アリス 作者:藤井太洋 訳:Emily Balistrieri 公開日:2024年2月14日
  • PROMPT 作者:Marina and Sergey Dyachenko 訳:Julia Meitov Hersey 公開日:2024年2月21日

パネル: 私たちはいかにしてプロのSF作家になったか

成都ワールドコン2023で二つ目に登壇したパネルディスカッションは、18日の午後に天王星ホールで行われた日本語の「パネル: 私たちはいかにしてプロのSF作家になったか」でした。

パネリストはデビュー順敬称略で野尻抱介長谷敏司高山羽根子、私(藤井太洋)そして八島游舷。司会は日中翻訳家の田田でした。

日本では多くの作家が出版社の新人賞の出版権を獲得してデビューしていますが、今回のパネリストはそのルートを通っていない作家が多く、面白い話を聞くことができました。

野尻抱介は勤務先で開発していたゲームのノベライゼーションでデビューしています。一作目から野尻氏は職業作家だったというわけですが、それからSF小説を持ち込んだ経緯を紹介していました。

長谷敏司は第6回スニーカー大賞で金賞を受賞してライトノベル作家になりましたが、デビューして数年後に早川書房から刊行した『あなたのための物語』が日本SF大賞の最終候補作になっています。

高山羽根子は「うどん キツネつきの」で第1回創元SF短編賞で佳作を受賞。単行本の約束されない受章から、東京創元社と大森望のアンソロジーで短編を発表し、同名の短編集を刊行しています。

私は電子書籍出版。友人に読んでもらうために行った出版だったので、賞に応募することは全く考えていませんでした。

八島游舷は大森望のゲンロンSF創作講座から、創元SF短編賞と日経星新一賞を受賞してのデビュー。受賞デビューではありますが、ゲンロンSF創作講座が登竜門になりつつあることを示す好例となりました。

同時通訳される私たちの声を真剣に聞いている参加者の姿がとても印象的でした。質疑応答も実のあるものになりました。素晴らしいパネルになったと思います。田田に感謝いたします。

パネル: 脱植民地化に向けて

成都ワールドコン2023で登壇した最初のパネルディスカッションは、脱植民地化に向けて:英語SF圏の影から抜け出す戦略と方法でした。

登壇者はシーザー・サンティバネスズイ・ニン・チャンフランチェスコ・ヴァーソ。司会は私が担当しました。私にとってはワールドコンで初めての司会であり、そして最も素晴らしいパネルディスカッションになりました。

テーマである「英語SF圏からの脱植民地化」は、35の国や地域から、100名を大幅に上回る作家や編集者、出版人を呼び寄せて国際的なコンベンションとなった成都ワールドコンの極めて重要なテーマの一つです。

冒頭私はアイスブレイクのために、ディスカッションのタイトルが中国語と英語で大きく異なっている子を指摘しました。中国語版の「世界科幻文学的多元的未来」には「脱植民地化」という言葉が孕む意味合いは含まれていないのです。私はそのことを指摘して、パネルディスカッションは英語版に沿って行うことを宣言しました。

参加者の自己紹介を行った後、私は、日本人が中国SFに出会った話を紹介しました。日本のSF界は、中国の現代SFが1970年代後半に始まっていたことを、岩上治(林久之)氏によって知らされていました。岩上さんは私たちのコミュニティのために何十年もの間、冊子で翻訳を含む紹介を続けてくれましたが、私たちは隣国の動向にあまり注目していませんでした。状況が大きく変わったのは、2015年と2016年です。ケン・リュウが英訳した劉慈欣の『Three Body Problem』と、中国作家アンソロジーの『Invisible Planets』がヒューゴー賞を受賞してようやく、私たちは隣国に目を向けました。英語で舗装された道を通って中国のSFを発見したのです。これこそが植民地化です。もちろん、ケン・リュウが植民地にしたわけではありませんし、ワールドコンのコミュニティも違います。しかし、私たちの関心やマーケティングは英語SFという発想で植民地化されてしまっていたのです。

そんな話をした後で、私は登壇者に「あなたたちがどのように植民地化されていたのか、教えていただけますか?」と尋ねました。

なんとも魅力的な時間でした。シーザーは「アンデス未来派」活動や、マジック・リアリズム・マーケティングの理不尽についてユーモラスに語り、ズイ・ニンは自身の経験を交えて語ってくれた巨大なコモン・ウェルスの問題を報告してくれました。近年のコンベンションでは欠かせない存在となったフランチェスコは、英語の橋を通らない翻訳出版を行なっているフューチャー・フィクションついて語ってくれました。

このブログで語りきれなかったことは、フォン・チュアンが 𝕏.com.でまとめてくれています。ぜひお読みください。