STSアンソロジー『すばらしきシリコン世界』刊行

短編SF小説「光より速く飛べたなら」を寄稿したSTS SFアンソロジー『멋진 실리콘 세계(すばらしきシリコン世界)』が刊行されました。耳慣れないかもしれませんがSTSは科学サイエンス技術テクノロジー社会ソサイアティの頭文字です。アンソロジーのタイトルは、オルダス・ハクスリーのThe Brave New Worldの韓国語版「멋진 신세계」の「신(New)」のところを「シリコン」に置き換えたものですので、私は「すばらしきシリコン世界」として紹介することにします。「すばらしき新世界」でハクスリーが描いた社会と技術の関係に現代のSF作家が挑むアンソロジーです。版元は、文芸出版大手の文学トンネです。

掲載されるのは以下の8作品。寄稿したのは6人の韓国人作家と、中国の劉慈欣、そして私です。劉慈欣の寄稿した「中国太陽」を寄稿していますが、他の7作品は全て書き下ろしです。ここに紹介したタイトルは私が勝手に翻訳したものです。実際に紹介される時のタイトルは変わることでしょう。長さは日本語にして15,000文字程度、45〜50枚ほどの短編小説です。

  • 「그들이 땅의 기초를 놓을 때에(大地の基礎を築くものたち)」タンヨ(단요)
  • 「중국 태양(中国太陽)」劉慈欣
  • 「헤아림으로 말미암아(測ることによって)」ウ・ダヨン(류츠신)
  • 「당신의 운명은 시스템 오류입니다(あなたの運命はシステムエラー)」ユン・ヨギュン(윤여경)
  • 「동물+친구×로봇(動物+友達×ロボット)」チャン・ガンミョン(장강명)
  • 「멋진 실리콘 세계(すばらしきシリコン世界)」チョン・ユンホ(전윤호)
  • 「슈거 블룸(シュガーブルーム)」チョ・シヒョン(조시현)
  • 「빛보다 빠르게 날 수 있다면(光より速く飛べたなら)」藤井太洋

機械翻訳でゲラを読んだのですが、冒頭のタンヨの作品から素晴らしい。「大地の基礎を築くものたち」は「すばらしき新世界」で描かれた人工子宮によって子供が生産される世界を描いているのですが、この社会に疑問を抱く主人公夫婦の関係が知的で、静謐で、謎と悪を探究する熱に溢れているのです。友人の韓国人たちが感じさせる知性と社会に対する批評眼、日本だと政治性と言われる強さを感じさせる傑作でした。 

劉慈欣の「中国太陽」は、唯一の既作。中国の貧村に育った少年が宇宙発電所に就職して人類の活動範囲を広がる宇宙開発物語。角川書店から刊行されている『流浪地球』に収録されている。

私の「光より速く飛べたなら」は、劉慈欣の暗黒森林理論をベースに描いた宇宙観測ストーリー。水星軌道で太陽を観測しているキム・ソジュンはある日、亜光速で地球に飛んでいくブラックホールを観測します。衝突までの残り時間は8分。この間にできることは――驚く仕掛けが待っているハードSFです。

ぜひ日本でも、まるごと日本語版を出してほしいアンソロジーです。

私の作品が最後に掲載されていますが、これは本書の大トリと言うわけではなく、作家のハングル順が最後に並んだからにすぎません。日本ではアンソロジーの掲載順を読み心地や設定によって決めることが一般的です。私が参加した『サイボーグ009アンソロジー』では、アンソロジーの象徴とも言える辻真先さんの作品に、それぞれの作品の主役のゼロゼロナンバー順が並ぶ形式になりましたし、『ポストコロナのSF』では現代から近い順に、未来、過去、をバランスよく並べていました。作家の年齢順のこともあるし、名言されることはありませんが、冒頭にインパクトのある作品を置き、そこから作品をグラデーションに並べて最後にテーマを象徴する大傑作を置くという方法がとられることも少なくありません。

そんなわけで二番手に置かれると「合わなかったかな」と思ってしまったり、ライバル視している作家の後ろに置かれると面白くなかったりするわけです。年長者や男性が先に並ぶと、やはり意味がついてしまいます。韓国ではそんな「序列」を排除するために、作家のハングル順に並べるのだそうです。お陰で本の末尾を担当することになりました。

少し緊張していますが、感想を聞かせてもらえる日が楽しみです。

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