
石ノ森章太郎氏の傑作シリーズに寄せた短編集がついに店頭に並び始めましたね。一足先に見本誌を読ませていただいたので、ネタバレにならない範囲で紹介いたします。
巻頭を飾るのはテレビアニメの脚本をノベライズした辻真先さんの「平和の戦士は死なず」。ヒーローがヒーローらしく活躍する懐かしい009の世界ながら、現代の小説にアップグレードされている正統派の作品です。
2編目は斜線堂有紀さんの「アプローズ・アプローズ」。キャラクター愛に溢れた好編。「どこ落ち」とその後の復活をつなぐ素晴らしいフィラーです。
3編目は高野史緒さんの「孤独な耳」。ソビエト連邦へ赴くゼロゼロナンバーちの活躍を描く一作。作劇と状況設定が物語に絡んでくる手際の良さに唸らされます。ソビエト連邦には、もう訪れることができないんですよね。そんなことも感じる作品でした。
4編目は酉島伝法さんの「八つの部屋」。ジェット・リンク誕生の物語、とプレスリリースで紹介されている作品。酉島伝法さんがどんな009を書くのか、皆勤の徒のような? なんてことを考えていましたが、蓋を開けてみルトボリュームとディテールたっぷりの骨太なSFでした。いやあ堪能しました。
5編目は池澤春菜さんの「アルテミス・コーリング」。東横キッズがフランソワーズに出会います。短いけど心に刺さる傑作。個人的にはベスト。この作品を読むためだけにトリビュートを買ってもいいとお勧めできます。この設定があってもいいと思える石ノ森ワールドの懐の深さも再確認できました。
6編目は長谷敏司さんの「wish」。実に長谷さんらしいアクションと語りで、現代まで活動を続けるゼロゼロナンバーと004を堪能できる作品です。
7編目は斧田小夜さんの「食火炭」。006の、ユーモラスでピリッと辛い物語。ふっと息が抜けるところかと思いきや、いきなり深みに引き摺り込んでくる油断のならない作品です。
8編目は私の寄稿した「海はどこにでも」。008が火星探査団の救難船で活躍します。正義にこだわるピュンマの活躍を、ぜひお楽しみください。
最後の作品は円城塔さんの「クーブラ・カーン」。円城塔さんらしい切り口・語り口で人新世をテーマに据え、ゼロゼロナンバーたちの活躍を堪能できるSFエンターテインメント作品です。
9編の作品は、おおむね主人公を務めるゼロゼロナンバーの順番に並んでいます。主人公にならなかったのは005と007。ただしどちらも持ち味を活かした活躍が描かれますのでご心配なく。特に007の登場シーンは多いですね。私の作品でもサイドキャラクターとして登場していただきました。どんな場所にでも現れることができて、シェークスピア劇のセリフを響かせる彼は009シリーズになくてはならない存在です。
このトリビュートの話をいただいた時、私はゼロゼロナンバーの出身国の作家に書いてもらってはどうか? と担当編集者に尋ねました。それなりに知り合いもいますし、この九人ならあの人に書いてもらおうという当てもあったからです。008=ピュンマはウォレ・タイビに頼めれば良いなあ、もしも実現すれば、アフリカの作家が描く008が読めるなあなんて思ったりして。しかし、そもそも国外の作家に書いてもらうといいなあというのは私の妄想に近いものでしたので、皆さんが手に取っている形になりました。
結果的に、すばらしいトリビュート作品集が仕上がりました。入稿して校閲のエンピツが入ったゲラを読んでいた頃に他の作家の名前を聞いのですが、私はその人選に膝を打ちました。日本にはずっとSFを書く女性作家がたくさんいたのですが、SFアンソロジー、特に既存作品のトリビュートは男性の作家に偏りがちでした。今回は半数近くの作品が女性作家の手によって書かれています。嬉しいことですね。
ともあれ私は、主役になることの少なかった008=ピュンマの話を書くことにしました。
ピュンマは、初めて自分で買ったアニメ誌で、アニメ映画超銀河伝説のためにデザインを変更することになった経緯が紹介されていた時から、ずっと気になってきたキャラクターでした。小学生だった私はその記事を読んだ時、何が問題なのかわかりませんでした。ピュンマの顔の下半分の色の薄い部分が、まさか唇の表現だとは思いもしなかったのです。民放の少ない島で育った私がアニメーションで動く009を見たことがなかったせいかもしれません。私が手に取ることのできたサイボーグ009は、伯父が経営する喫茶店に置いてあったコミックか、アニメ誌の印刷物でしかなかったのです。中学生になり、島を出て高校に入る頃には人種的な特徴を戯画化することが、内地の人たちが島から出てきた私たちに向ける蔑視の目、人種差別と同じ根を持つことも理解していました。ちびクロサンボの絶版を耳にしたり、漫画全集や昭和初期の文学作品の奥付けで、人種の特徴を誇張した表現に関する但し書きを読んだりするたびに、デザインの変わったピュンマのことを何度も思い出すことになりました。「圧力に屈した」と思った時期もありましたが、いつ頃からか、石ノ森章太郎本人が新たなデザインのピュンマを描いていことに安心するようになりました。
彼を主人公に据える時、私は人種差別と文化の簒奪から逃れることはできません。でも、こんな物語ならどうでしょうか。楽しんでくださることを期待しています。
それでも次にトリビュート企画があれば、アフリカの作家に繋ぎますよ!